藤田さんの新刊「起業家」を読んだので、感想をまとめます。
他の著作と異なり、広告代理事業からメディア事業への転換について具体的に書かれているので、業界の方には圧倒的に面白い本に受け取れると思います。個人的には、「起業家」というよりは、「コンプレックスを超える経営」的な内容として受けとりました。落ち着いたときにそのストーリーをまとめて感じたくて、ゴールデンウイークに一気読み。
サイバーエージェントは、同じ業界にいる者として、非常に面白い会社です。
- 社員がみんな優秀かつイイやつ。
- どんな事業でも、変化があっても、やり切る。
- 代理店として味方につけたら頼れる仲間。
- メディアとして競合するときは脅威。
- 女子社員は、ほぼもれなくキラキラしてる。
僕はこんな認識を持っていて、どこにも似ていない会社だと思ってます。
僕とサイバーエージェント
藤田さんとサイバーエージェントは、僕が一方的に思っている、特別な存在です。僕が日テレにいたころ、前作の渋谷ではたらく社長の告白を何回も読み、起業することを決心しました。オプトで修行中も、競合の会社であると同時に、派手な納会や、マークシティのオフィスがちょっとうらやましかったり。ハロを立ち上げてから、パートナーであり、競合として一番深く関わったのが昨年の2012年。 僕らの主力商品だったiPhone / androidアプリ「アドラッテ※」の効果に真っ先に気づき、サイバーエージェントグループ全体で販売してくれました。ピーク時は、ハロの売上の過半数がサイバーエージェントからのものになっていました。この時は、本当に心強い会社だとメンバーと話していました。(※現在はアップディスコジャパン&GREEに譲渡) しかし、見てくれや機能がほとんど同様のプロダクトを自社で開発したり、知人の開発会社にまったく同じ物を作ってくれ、と依頼しているのを聞いたときは、「これが昔、本で読んだ、サイバークリック戦略か!」と震えましたw 最初は代理販売、よければ同じようなメディアを創り、一気に広告費を投下してシェアを奪いに行く。資本力を活かしたリスクの少ない、正攻法だと思いますが、それに対する対抗策を当時、僕らは持てずにいました。
昔、本で読み、憧れていた会社と、同じフィールドで仕事をしたり、戦ったりしているのは非常に面白いです。別の業界にいたときは、インターネット業界の、ベンチャー起業家のストーリーの一つだと思っていたところに、自分がいること。というわけで、新作の「起業家」も、藤田さんならではのドライブ感のある文章を期待して、Kindle版で一気に読みました。
「起業家」を読んで
サイバーエージェントの「21世紀を代表する会社をつくる」というビジョンとその意義について考えさせられました。
これまで、ポータルではLivedoorに突き放され、コミュニティでは投資先でもあったmixiにぶち抜かれ、ゲームではDeNA、GREEに遅れをとった藤田さんのコンプレックスが、サイバーエージェントのこの10年を突き動かしていたんだな、という感想です。決して一番最初に事業を生み出すタイプの会社ではないが、広告代理事業、メディア事業、金融事業とインターネットに軸足を置きつつ、ポートフォリオを組むスタイル。
しかし、「21世紀を代表する会社」にするための第一ステップは、「売上1,000億円、営業利益300億円の会社を作りたい」。手段として、「広告代理事業だと営業利益率は10%が限界だから、メディア事業をやろう」 そこで自分がプロデューサーとして陣頭指揮を取り、一気に会社全体をAmeba色にする。
ただ、この本にもあるように、事業の転換は非常に難しい。
規模は大きく違いますが、20人と少しのハロは、5年前の創業時は広告代理事業からスタートして、今はスマートフォンに特化したメディア事業、マーケティング事業を行う会社に転換しました。きっかけはスマホの流れが一気にきた2012年からですが、創業時からモバイルでメディアを運営するために、タイミングを見計らっていました。ピボットというものではなく、全く別の事業を行えるように体質を変化させることが必要なので、非常に難しかった。広告代理事業は枠を仕入れて売るため、基本的に初期投資は不要。一方、メディア事業は、まずユーザーを集めて、そこから一気にマネタイズする。この考え方の変化に、大苦戦しました。
メディアをやるには、権限移譲じゃなく、キチガイがワントップでやる。メディアを創るって、ただの仕事ではないと考えています。
正直、2,000人近い規模のサイバーエージェントでこの転換を成し遂げるのは、一種のパラノイアでないとできないことだと思います。(ここが一番の読みどころだと思うので、詳しくは本にて)
<メディア事業に関して響いたところ5点>
- 権限移譲じゃなく、自分がワントップでやる。
- 広告代理事業のオマケみたいな小さいメディアじゃなくて、腰を据えて大規模に立ち上げる。
- メディア事業をやるには知名度が大事。名乗りを上げるのはタダ。
- インセンティブをつければ、ユーザーはサービスを乗り換える。後発でもまくれる
- 収益化に本気で取り組まなくとも、自然と損益分岐点を超えていくような事業でなければ、本当に収益力のある事業には育たない。5億PVで収益化させ始めれば、そこがアッパー。100億PVで収益化させ始めれば、100億PVのメディアになる。
<経営について響いたところ3点>
- すごい会社に入った奴が偉いんじゃない。すごい会社を創った奴が偉いんだ。
- 会社が「社員を大事にするよ」と呼びかければ、社員も「会社を大事にしよう」と応える。
- 企業文化の土台をしっかり作り、社員を大切にすれば、どんな変革も可能である。
ビジョンについて
〜「起業家」より引用〜
サイバーエージェントのビジョンは「21世紀を代表する会社を創る」です。20世紀の日本で生まれ、世界に誇れる会社になったホンダやソニーのようになろう。そのくらいの売上規模、従業員数、世界的にも成功を果たし、そして社会への影響力をもつ会社になることが目標です。
僕はこの点が不思議に感じたのですが、なぜメディア事業をやるのか、またはその理念が外からみるとわからないんです。(内部では共有しているものがあるのかもしれませんが)広告代理事業では、利益率に限界があることは分かっています。そうすると、インターネット領域で残るはメディア事業、ゲーム事業、コマース事業など、自社でサービスをもつことが必要になります。
サイバーエージェントが「収穫逓増型ビジネス」であることの他に、なぜメディア事業をやりたくて、21世紀を代表する会社になることで、自社以外の誰が幸せになるのか?というのがこの本からは読み取れませんでした。(もしくは僕が感じ取れなかっただけかもしれません)目指したい自分の姿はあるけれど、いわゆる理念や「Why?」がわからない。メンバーも、「21世紀を代表する会社をつくる」手伝いをする、「数字が出る事業をやる」という目標をもつ方が多いと感じていますが、なぜ、メディアやゲーム、コミュニティをやるのか、やりたいのか。
ここまでビジョンを浸透させられるのは、正直すごいと思うと共に、僕には理解できない部分もあったりしますが、それがサイバーエージェントの強さであり弱さ、そして魅力なのでは、と考えています。最後にある、「全ての創造はたった一人の『熱狂』から始まる by 幻冬舎見城さん」が印象的ですが、藤田さんの熱狂は、アメーバであり、サイバーエージェントというプロダクトそのものなんですね。それが、事業の方向性よりも、土台となっている企業文化に支えられているところに、この会社の面白さ、20世紀の会社にはおそらくなかったであろう特徴を感じます。
僕はまた別のアプローチで、21世紀型のチームでメディア事業を行なっていますが、自分のフェーズが変わるごとに、違った視点を与えてくれる本になると思います。