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テレビCMを打つという夢

子供のころの自分からすると、自分たちの会社がCMやるって一つの夢を叶えてるのかもなあ、と思います。
IT企業の経営者は普段テレビ見ない人が多いと思うけど、だからこそユーザー獲得の手段としてだけじゃなくて、好きな番組をスポンサードする、という思想を持てたら素敵じゃないでしょうか。
テレビという巨大メディアは、そうやって育てられてきたと思うから。今の大企業や代理店たちから支えられ、ユーザーのための、クオリティの高い番組をつくってきました。
だから、正直、今のアドネットワークに支えられているWebのメディア事業は、少し物足りないと思うこともあります。だからこそ、タイアップ広告や、今で言うネイティブアドの取り組みをはじめています。スポンサーと意見を交わし、面白い広告をつくることがインターネットのメディアが今後繁栄するのに必要なことだと思っているから。
僕も、いつかCMを打つことがあったら、これまでのテレビとスポンサーへの恩返しとしてなにかやってみたいと思っています。

いまさらですが、提案におけるオーダーとオファーの考え方

もう8年も前、僕が広告業界に来た時に先輩に教わったことを振り返ってみます。

クライアントからのオーダーを、そのまま真に受けて提案するという代理店が以外に多いと思うんだけど、僕が以前、博報堂出身の元師匠から教わったのが「オーダーとオファー」という考え方。(広告業界では割と浸透しているはず。タカヒロさんのインタビューにも
先方で決まっている内容を元にオーダーを受けたら、その場合の提案は考えつつ、そもそもの課題設定は合っているのかという提案をするのが本当に価値を出すということ。先方がもやもやしていたら、一緒に課題を整理してあげること。

例えば、1,000万インストール獲得したい、という課題を与えられた時にそのまま積み上げで獲得手法を並べたってしょうがない。1人100円で獲ったとしても、10億円かけるなんて現実的じゃないから。だから、クライアントと一緒に「Why?」まで考える。それが、クライアントと目線を揃える、パートナーとして信頼される、ということじゃないかな。

これは、サービスやアプリを創るときも一緒で、いいデザイナーやエンジニアは、「ここをこうしたい」と相談したときに「なぜ?」まで汲み取って実装してる。本当に頼りになると思えるパートナーなのです。そういう方たちと一緒にものづくりをすると楽しいですよね。

グロースハックで陥りやすい二つの罠

今、なぜ「グロースハッカー」が注目されているかというと、インターネットがそういう時代に差し掛かったから、だと考えています。時代は流転していて、パラダイムが変わるごとに、創る人→広める人→演出する人というように活躍する人が変わってくる。(僕の好きな本、神田昌典さんの「優しい会社」にインスパイアされてます)

周りのスタートアップの様子を見ていても、プロダクトを創ったものの出した後の戦略が描けていなかったり、大きめの企業になると、マーケティングは広告のみに頼っていたり、と継続的にサービスを成長させる土壌はまだ整っていないようです。一通りサービスを創れる環境が整った今だからこそ、各社が求めているのが次のフェーズの、サービスを成長させる人=グロースハッカー。ということではないでしょうか。

これから、という方は、下記の入門書がシンプルでとっつきやすいのでオススメです。クックパッド加藤さんのボリュームある解説も実践的で参考になると思います。

僕自身、グロースハックという言葉を意識してやってきたわけではないのですが、お金をそんなにかけずにできることってあるよね、と思ってボケてやアドラッテ、そして今回の「新都知事とつくろう、TOKYO自転車シティ」のお手伝いなど、グロース戦略を立案し、実行してきました。以降、経験談を元に、ポイントを5つ書いてみます。ラスト2つが最近僕が気になっている「罠」です。

1.マーケティングからグロースハックへ

これまでのマーケティングとは?

出来上がったものを、顧客に届けること。CMや宣伝や資金でサービスの「ブランディング」や「マインドシェア」など漠然としたものを追い回す、予算がある人のリッチなお祭り。お祭りだから結構楽しい。

グロースハックとは?

ひたすらユーザーと成長とを追跡する。戦略が当たれば、ユーザーがユーザーを引き込む連鎖反応が生まれる。小さなカイゼンの複利計算で、プロダクトを成長させながらユーザーを獲得すること。予算がない人でもできる手段で、割と現実を見る仕事かも。(SEMの運用とか、あるKPIを定めて運用する場合、こちらに含まれると言ったほうがよいかも)

グロースハックとは、「出来たものを渡されたマーケターが、漠然としたプランでお金を使うこと」とは違い、「ユーザーが動くことによってサービスが自然に成長するエンジンを創りだすこと」を強く意識して行うカイゼン。このマインドセットが大事なんですね。

2.プロダクトの中にマーケティングを内包する

僕が、一番好きな言葉です。これまで僕は、プロダクトを創る担当とプロモーションする担当が別になっている会社を多く見て来ました。しかし、元々マーケターだった僕ら自身がプロダクトづくりをするとなると、プロダクトの中にマーケティングを内包することが自然な行動でした。プロモーション費用を払うお金もなかったですし。ユーザーがプロダクトを使ってくれて、よければ友達にも紹介してくれたり、サービス内でコミュニティが出来上がるからユーザーが再訪してくれたり。この設計思想が、リリース時に実装されていたことが成長に大きく寄与しました。

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一番強くイメージしていたのは、DropBoxの手法。友達を招待すると、容量が増える。良いサービスだから友達に教えると喜ばれるし、僕も嬉しい。一人招待するたびに、DropBoxチームに貢献出来ているようで、なんだか楽しかったのです。

 

3.小さなカイゼンの複利計算

一つの手法が出せる効果は、2倍、3倍とはいかないかもしれない。しかし、20%のカイゼンを5回繰り返せば、1.2の5乗で2.5倍の効果になります。ユーザーの入り口から、サイト内で詰まっているところ、友達に紹介するところ、カイゼンできるところは無数にあるはず。それを一つひとつ見つけ出し、検証し、成果につなげること。日本人のほうが得意そうですね。

ここまでは、本やいろんな記事にも書いてあるように、世の中でよく言われていること。残り2つは、僕が陥りやすそうだな、と考えている「罠」です。

4.ユーザーは「ある特定の一人」を想定した数字で見ていいのか?

こんな感じで、メルマガやバナーのコピーライティングをカイゼンしたりしている企業も多いでしょう。例えば、あるグルメサービスの有料プランの訴求をしたいとします。クリエイティブは2本。

ひとつは、「今日から30日無料!」 CVR5%

もう一つは、「ランキング機能が使える!」 CVR3%

前者は、CVRが5%。後者はCVRが3%だったとします(わかりやすいように単純化しています)。すると、ABテストの結果、当然前者が採用されるわけですが、ここで、ユーザー全体を、一人のユーザーとして見てはいけません。あるクリエイティブで良い効果が出ても、すべてのユーザーが同じ人ではないので、反応しなかった残りの95%のユーザーを、別の訴求ポイントで取りに行く必要があります。刺さる訴求は人によって異なるので、最初の5%が下がってきたら、もう一つのクリエイティブで95%の人に訴求する。その繰り返しです。

このように、一度勝ちパターンを見つけたからと言って、そのまま出していると当然効果は下がってきます。グロースハッカーには継続的にカイゼンをすることが求められるのです。つまり、「一番いい答え」を見つけるのがゴールではなくて、全く異なる一人一人のユーザーを、順番に獲得していくことが継続的な成長施策となるのでしょう。当然、効果が落ちてくれば次の施策を試すのですが、それが、「ターゲットとなるユーザーを刈り取ったからなのか」「飽きられたからなのか」など、理由をつけて次へ進めるかが、継続して施策を出す上で大事だと考えています。

5.全体最適と部分最適

よく、「どっちがいいかわからないからABテストをしてみよう」というセリフを聞きます。仮説を立てた上でテストするならよいのですが、それ以前だとストーリーがないため、単発の施策に終わってしまいます。

ここまではまだよいのですが、これをやみくもに20箇所くらいで実施したらどうなるでしょう?それぞれのパーツ、機能では最適化が図れるのかもしれませんが、プロダクトとしてのメッセージ、世界観にコンフリクトが生まれていないでしょうか?例えば、会員登録ページではテキストオンリーのシンプルな構成なのに、中に入るとゴテゴテのビジュアル。部分的なABテストの結果のみを採用していくと、一つのサービスとしての、全体のバランスが崩れてくると思います。

もっとわかりやすい例だと、収益化のために入れる広告を目立つ場所に設置したら、収益は増えた。しかし、見栄えは悪いし、ユーザビリティも下がった。短期的には収益のKPIを優先させたいが、中長期的にはユーザーが嫌になってしまうのではないでしょうか。(得た収益も、当然サービス運営、改善のための投資となるので、悩ましいところです)

など。プロダクトのプロデューサー・ディレクターには、ユーザーの利用状況、コンテンツの編集、マネタイズ、各所のKPIをみつつ、一貫したユーザー体験を設計することが求められます。まだこんなことはないと思いますが、強烈なグロースハッカーが入社してきて、成長に関するデータと、提供したい世界観の相違でケンカになることが今後あるかもしれません。

僕は現在、両方を担当することが多いので、人格を2つ創って、自分の中でケンカさせています。もちろん、サービスが長期的に成長するために、最善の策を取っているつもりです。

おわりに一つ事例を

入り口の最適化の例を一つ(以前onlabでお話させていただいた時の資料です)。ここはサービス全体への影響が少ない部分なので、単体での最適化は比較的し易いです。このような施策はうまくいくことが多いのですが、施策が複数出てきた時に、サービスとしての全体最適ができるようになるといいなあ、といつも考えています。ユーザーがサービスに触れるところから、使ってくれるところ、友達に紹介するところ、使い終えるところ。とくに、コンテンツを扱うサービスに関しては、感覚的に質や世界観を判断せざるを得ない状況もあります。グロースハッカーとディレクターはお互いの世界をはみ出し、サービスを演出していけると良いのではないでしょうか。

 

P.S.

僕と一緒にボケてや、現在仕込んでいる新サービスをグロースハックしてくれるエンジニアを募集していますので、興味ある方はぜひランチしましょう(連絡はosamuise@halo-web.comまで)。渋谷のハロオフィス見学もお気軽にどうぞ。

僕らは、日々のクリエイションで価値を生み出しているか?

先日、僕が大好きなブランドでデザイナーをしていた方とご飯をご一緒させていただきました。普段のインターネットにおけるモノづくりで、僕が忘れそうになっている点について、気づきを多く頂きました。

何点か紹介したいと思います。

消費されないこと

毎シーズン、ブランドが新しいコレクションを出すのは、ファッション業界の仕組みに回されているということ。だから、必ずしも毎年コレクションはやらない。理想は、いいものを、手入れしながら、ずっと使っていくこと。例えば、レザーのカバンを、おばあさんの代から母親、娘の代まで大切に、メンテナンスしながら使う。すると、作品としての味が増していく。使ったら価値が目減りするというファストファッションとは逆の考え方。

ファッションは、ビジネスとして成立してこそ

一方、ファッションはアートではないとも言う。生み出したプロダクトを、生活者が着ることによって表現が完成する。だから、売れなくては意味が無いし、続けるためにビジネスを成立させることが必要。ただ、価値のあるものは高い。それだけ素材や、縫製にもこだわっているからだ。もちろん事業規模次第であるが、尖ったものから裾野の広い顧客に手の届く商品までラインナップを揃えざるを得ない場合もある。

プリミティブな欲求を刺激する

衣食住、というけれど、食は圧倒的にファーストになってしまった。衣も、大量消費社会、そしてインターネットの普及によって、すごくイージーな体験になりつつある。本当にほしいものを足で探して、手に入らなくて、我慢して買うといった体験をすることが、価値になっていた時代。真剣に自分が着るものを選ぶことが、自分の価値を上げていく。

クリエイションはケンカ

創りたい世界観がれば、クリエイターとして主張をすべき。羊さんにはなれないはず。ただ、ケンカしてモノをつくるような体験は、日本の教育に存在しない。だから慣れないことも多いが、真剣にものを生み出すとはそういうことだ。

模倣されることは光栄である

同じようなコンセプト、デザインの商品やサービスが次々出るということは、価値が認められたということ。僕らは最先端を走り、これまでになかった価値を発信する。最初は生活者がついてくるかはわからない中で、チャレンジする。そこで、フォロワーによる模倣が起こり、サービスがコモディティ化していくが、それは自然の流れであり、受け入れるべきことである。大抵の場合、大きな利益を得るのは後発の大量生産をする企業だが、僕達クリエイターの使命は新たな価値を生み出し、それを生活者に提案していくことである。

仲間と共有すべきは価値観

一緒にモノをつくる人、工場を選ぶときの基準は3つ。

  • 服をつくる技術を持っていること
  • お互いがビジネスとして成り立つこと
  • 価値観が共有できること

とくに、最後が一番大事。単発の仕事に留まらない関係性をもったとき、創る喜びを共有できる。また、自分が何者か、先入観を持たれずに接することで、本当によい出会いにたどり着くことができるという。

おわりに

ファッションを通じて文化を創り、それが生活者に受け入れられるということ。結果的に、世界を少しずつ変えていくということ。日本で、イッセイミヤケや、ヨウジヤマモト、川久保玲など先人たちが成し遂げてきたことが、どれだけ価値のあることか、それは今僕がこれらのブランドに共感していることが示していると思います。

僕がやっているメディアづくりにも応用できることが沢山ありました。特に、仲間探しから始まり、ケンカしながらも作品を創ること。そして、しっかりとサスティナブルなビジネスにすること。スマートフォンのメディア事業の収益は主に広告だが、ただ、ヒマなユーザーを集めて、それをダイレクトマーケティングのクライアントに提供するのみでは、他のメディアとなんら生み出す価値は変わらない。だから、僕らはユーザーとともにサービスのブランドを高め、僕達しかできない、広告価値の高いプロダクトにしていく必要がある。結果的に、僕らは新しい挑戦ができるし、ユーザーによいサービスを提供し続けることができる。それと同時に、新たな作品を創り、ユーザーに提示していくことを、今年も続けていきます。
自分の仕事は価値を生み出しているか、そこにこだわりながら。
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焼き鳥とビールを片手に。